『田園の詩』NO.74「本物の田舎暮らし」(1997.11.25)


 過疎化の進むわが町(大分県山香町)を都会だという人は誰もいません。しかし、町
の中心部から10`も離れた本物の田舎(俗っぽくいえばド田舎)に住んでいる者から
見れば、町の中心部の生活は都会の暮らしと変わらないように思えます。

 町役場のある中心部には、歩いて行ける範囲に病院や銀行やスーパーがあります。
学校も1学年2クラスあります。私が都会に都会に住んでいた時とほとんど同じ条件が
揃っています。

 それに比べて、周辺部の当地区の学校は全校で40名です。店も雑貨屋が2軒ある
だけ。朝夕2便のバスしかないので病院通いも思うようにいきません。

 田舎暮らしを始めたタレントのSさんの本に、「田舎に住もうと思った人がいたら、
ぜひ若い内に実行してほしいと思う。年を取ってからでは、ちょっと無理だ。年をとっ
たら病院が近くにないと不安だし、買い物できるところが近くにあってほしいと思うだ
ろう。」と書いていました。都会から本物の田舎に連れて来られた女房の口癖がその
まま活字となっていました。

 一極集中が小さな町の中でも進んでいます。結婚した若夫婦の大半が、親と別居して
便利な町の中心部に出ていきます。

 かくして、≪都会暮らし≫をする人は増加します。反対に、不便な≪田舎暮らし≫をし
ているのはお年寄りばかりです。山里はいまに人がいなくなります。

 こんな流れを作ったのは実は町行政自身なのです。町は別居を望む若夫婦のために、
良かれと思って、中心部の便利な場所に≪若者向けの町営住宅≫を建設してきました。


     
    最近、また町の中心部に住宅地が造成されました。  (09.3.30写)


 私はこれは逆だったと思います。中心部の一等地には、快適で格安に提供できる
≪お年寄り向けの住宅≫を建てる。子供が結婚したら、親は田舎の大きな家は若夫婦
に任せて、さっさと住宅に移り住んで便利で楽な≪都会暮らし≫をする。親の世代の
この決断がない限り、田舎に若者は定住しないでしょう。

 今、山里は紅葉の真っ盛り。自然は次世代のために散り始めています。
                            (住職・筆工)

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